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2012年3月30日 3:04 PM

いつの日追いつく大リーグ

後楽園球場の大リーグ開幕2連戦、マリナーズ対アスレチックスをテレビ観戦して複雑な感慨にかられました。
「日本の野球も強くなったものだなあ」という満足感と、「永久に大リーグには手がとどかんだろう」という失意の念がわたしの胸で交錯しました。高校一年のとき来日したサンフランシスコシールズの記憶がいまだに鮮烈だからです。
昭和24年の秋、戦後初めてアメリカのプロ球団が来日しました。大リーグ球団ではなく、3A級のパシフイックコーストリーグの所属球団です。わたしたち野 球少年は大リーグの強大さはさんざん耳にしていたけれど、3A級相手なら日本の球団も互角に戦うだろうと信じていました。赤バットの川上哲治、青バットの 大下弘、猛牛千葉茂、ジャジャ馬青田昇、物干し竿の藤村富美男、七色の変化球若林忠志、完全試合の藤本英雄。これらヒーローたちが戦勝国アメリカに一泡ふ かせてくれるものと期待したのです。
第一戦の対戦相手は巨人軍でした。学校から急いで帰ってわたしはラジオにかじりつきました。巨人の先発投手は川崎徳次。この年19勝したエースです。
一回表シールズの攻撃。「川崎投手、顔面蒼白であります」アナウンサの声をきいてわたしはイヤな予感にかられました。
予感は的中。川崎は次から次に安打を浴び、いつシールズの攻撃が終わるかわからない始末。一回表に7点とられて早々にKOです。
しかし私は一回裏巨人の反撃に期待しました。先頭の千葉が右前前安打。2番白石は四球。
「ようし、いけいけ」とわたしは意気込んだのですが、3番青田が左翼へ大ファウルのあと凡退。4番川上、5番南村もダメで無得点でした。結局13対4で巨人軍は粉砕され、わたしは悄然としてラジオのスイッチを切りました。
空は雲に覆われ、町の風景が暗く見えました。「日本は負けたんだなあ」しみじみ実感したものです。
空襲による廃墟のなかで暮らした都市の少年たちと違って、わたしは田舎で暮らしていました。アメリカに叩きのめされた実感はそれまでありませんでした。あの対シールズ第一戦(10月14日)がわたしたち地方の野球少年の敗戦記念日だったのです。
シールズはその後も猛威をふるいました。全東軍、全西軍、全日本軍、全六大学軍をいずれも破って7戦全勝で帰国しました。
ニュース映画でわたしは対シールズ戦をほんの一部だけ目にしました。われらの川上も大下も藤村も青田もシールズの選手にくらべると大人と子供のように貧弱 に見えました。日本選手はクルリ、クルリと三振し、向こうはガンガン打ちまくります。ワールという左腕投手はあまり足をあげず腕力に頼った投法で、いかに もアメリカ人でした。
「全日本軍が大リーグのチームとやったら20対0ぐらいで負けるだろうな」
とわたしたちはいいあいました。
記者が日本の野球はアメリカでは何級にあたるかと向こうの選手に質問し、「Dクラス}といわれたらしい。3Aの選手にそこまでバカにされたのです。
そのシールズの記憶にくらべて、後楽園の開幕戦の大リーガーたちはうんと身近に見えました。なんといってもイチローがいます。日本人も大リーグでやれる。 日本の野球も向上したもんだとうれしくなります。なによりも満員の球場の風景が隔世の感をさそいます。戦後の荒れた後楽園球場を知る者にとって東京ドーム は壮大な夢の城なのです。
半面彼我の身体能力にはどうしようもない差を感じます。日本選手にくらべて向こうは巨漢揃い。パワーもスピードも強肩ぶりも圧倒的です。イチローのような異能の天才をべつにして、日本選手は到底太刀打ちできそうにありません。
技術的には日本の野球は大リーグなみ、あるいはそれ以上なのでしょう。だが、身体能力の差はどうにもならない。マリナーズ、アスレチックス戦をみてつくずくそう思わされました。あと一歩の差。それは永久に埋まらない差のようです。。日本人のスポーツ的運命なのでしょう。
今年31回を数えた大阪国際女子マラソンを連想させられます。その第一回大会(昭和57年)をわたしは見学し、スポーツ紙に観戦記を書きました。
上位10名の入賞者のなかに日本人は唯一人。10位に佐々木七恵がいるだけでした。シールズ戦ほどではなかったけど、日本人はまだまだダメだなと落胆したものです。
でも第11回大会(平成4年)で小鴨由水が優勝、その後浅利純子、安部友恵、渋井陽子と優勝者を出し、22回大会では野口みずきが優勝しました。以来女史 マラソンは世界の一流の水準を保っています。だが、こちらも身体能力の差が出て昨今はアフリカ勢にあと一歩およばぬ状態のようです。

身体 能力で敵わないなら頭脳、といきたいところだけど、これも野球同様あと一歩アメリカにおよばないようです。とくにITの領域ではそうらしい。あらゆる分野 で日本は一位になれないものか。でも、野球やマラソンはまだマシなほうです。こと政治の分野となると日本の現状はまだまだシールズ来日当時の全日本軍程度 かも知れないですね。