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2013年7月9日 2:25 AM

おれも書きたい、老人の性

朝9時台だったか10台だったかテレビに渡辺淳一氏が出ていました。話題はベストセラーになった近作についてでした。タイトルは失念したけど、老人の性を扱った小説だそうです。
高齢になれば、ボッキしなくなるし、濡れなくなる。だが、半面さまざまなしがらみから自由になる。老人老女はどんどん恋愛をするべきだと彼は語っていました。まあ人生の勝利者の弁でしょう。裏にはさぞ凄絶な苦労があるのだろうけど、そんなヤボは口に出しませんで した。
渡辺氏を見てわたしは目を丸くしました。久しぶりで見る彼はムーンフェイス(満月顔)だったからです。ステロイド剤の副作用でそんな丸い顔になります。彼がガンだという噂は耳にしていたので、ああやっぱりと思いました。前立腺ガンだと本人も語っていました。

手術は せずに抗ガン剤などで闘病するそうです。自身が医師だから、妥当な決断なのでしょう。
番組ではなにかのパーティで銀座のママやお姉さんがたに囲まれている彼の姿が紹介されていました。しみじみわたしは懐かしかった。
わたしも酒場のママやお姉さんにモテた(主観的には)時期があったのです。でも、もう10年以上むかしのことです。あの状態をいまも保持 している渡辺氏はつくづく大したもんだと思うのです。
彼はわたしと同じ79歳。小説家としてデビューしたのもほぼ同じ時期でした。彼とわたしの今の場の差を思うと、むろん悔しいが、兜をぬがざるをえない心境です。もちろんわたしもただ凹んでいるだけでなくて、野心作を製作中ですが。
私が35~6歳のころ、小説現代のグラビアに「期待の新鋭作家5人」が載ったことがあります。うれしかったのでよく覚えています。
「期待の新鋭5人」は渡辺淳一、長部日出雄、石堂淑朗、藤本義一それにわたしでした。渡辺氏はけっしてダントツではなかった。横一線 のスタートだったと思います。
それから40年以上たった現在、藤本、石堂両氏は故人となりました。長部氏は地味ながら高水準の仕事をつづけて一部に高く評価されて います。渡辺氏は前述の通り大流行作家。対してわたしはといえば、昨年は一冊も本を出せない体たらくでした。
わたしは私小説系の小説家です。日本の文芸の本流は私小説だと信じてやってきたけど、見当外れだったかもしれません。いまが旬の 百田尚樹氏ほど「売る」ことに徹しきれなかったのは、私小説についての思い込みもあったが、根本は小説を「つくる」作業を怠けたせいが大きかったようです。いま仕掛中の大作はオモロイけど、過去を振り返ると後悔しきりです。大作が終ったら、徹底的にオモロイものを 工夫して書くつもりです。
渡辺氏も私小説系の作家だとわたしは思います。でも、彼には万人の興味を引く医学知識があります。これを生かして、とくに女性の描 き方は絶妙でした。ふーん、女はこんな風に思うのか、とわたしはしばしば教えられます。
だが、私小説家にしては、わたしには「火宅の人」の覚悟が欠けていました。中途半端なヤクザ者だったのです。渡辺氏は医学知識だけでなく、その方面の覚悟も並はずれていたのだろうと推察します。考えてみるとわたしは「期待の新鋭5人」のうち渡辺氏にのみ面識があり ません。会っていればいくらか影響されてもっと乱行できたのかもしれません。
渡辺氏とかいま盛業中の楡周平氏とかを見ても、小説家は他の追従をゆるさぬ自分だけの専門を持っていたほうが良いようです。デビューしやすいし、長続きもします。こんなことに気付いたときはすでに手遅れ。わたしにとって人生はそんなものでした。
渡辺氏に対抗する意味ではなく、わたしも自分流の老人の性を書いてみたいと思っています。私小説の枠をハミ出して、いくつかの発見を、恥も外聞もなく書くつもりです。つぎの作品こそわが代表作。すべての小説家同様、わたしはそう思っています。

  • 石川正尚

    渡辺淳一氏も担当しておりましたので、今でもお会いする機会があります。人もそれぞれ、作家もそれぞれ・・・どうかご自分の書きたいものを書き続けて下さいませ! ますますのご健筆をお祈りいたします!

    • abemaki

      ご無沙汰しています。フェイスブツクの返信の仕方がわからないので、失礼した向きが多多あります。すみませんでした。
      齢80ともなればほうぼうに故障が出ますが、基本的には元気です。老人の性、ぜひ書きたいと思っています。電子書籍はさっぱりダメですね。
      発表の場をまた考えてゆきます。 アベ