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2012年12月4日 4:33 AM

どんより空はいつ晴れる

師走とともに政治の季節がやってきました。どの新聞もどの週刊誌も選挙の予想記事が満開。3万人の意見をきいたとする週刊現代の大予想では(1)自民党 (2)日本維新の会(3)民主党(4)公明(5)みんなの党(6)未来 となるようです。
嘉田滋賀県知事を看板に引張りだした小沢一郎氏の悪知恵はサスガと思わせるけど、ブームを巻き起こすには至らないようです
安部普三内閣が成立すれば、新憲法の発布や自衛隊の国防軍化、インフレ目標の設定によるデフレ脱却などがはかられるようです。原発、TPP推進などの方針は現政権と大差ない模様。
なんだかわたしは物足りない気分です。たとえ維新の会が連立に加わったとしても、目下の日本の閉塞状況を打ち破れるとは思えません。
なんでこうなのか。なぜわたしは選挙の結果に期待できないのか。これまで選挙によって世の中が劇的に変わったためしがないからだろうか。もともとわたしは非政治的人間で、文芸や音楽にしか興味がもてない性分なのだろうか。
考えてみて理由がわかりました。少年時代わたしは世の中の大変化を体験したので、少々の変化にはおどろかなくなっているのです。

わたしは小学校6年から中学、高校時代にかけて終戦による社会の激変を体験しました。あんな変化は選挙なんかで起こるわけがないと心の底であきらめていたのです。
戦争が終わったとき、わたしは秋田の農村に疎開していました。8月15日に日本の降伏が発表され、天皇陛下の詔勅がラジオで流れました。ちょうど夏休みのさなかで、晴れた暑い日だったのです。
9月、夏休みが終わって学校へ行きました。担任の女の先生が、
「私たちは東條英機ら軍人に騙されていたのです。これからはアメリカを模範にして民主国家を建設しなくてはならなりません」
といったのです。
子供心にわたしは唖然としました。その女先生は夏休み前までは、アメリカ、イギリスを「鬼畜米英」と呼び、彼らを撃滅するのがあなた方の使命だといっていたのです。
女先生だけではありません。校長も教頭も村長も在郷軍人会の会長も、大人は全員軍国主義者から民主主義者に変わっていました。野山の風景は変わらないのに、大人たちの言動は一ヶ月のうちに180度変わったのです。[国敗れて山河あり」を実感しました。うっかり大人を信用するとひどい目に会うと思ったものです。
翌年わたしは大館の旧制中学へ入りました。予科練帰りの上級生などがまだ威張っていて、なにかというと殴られるような風土でした。しかしアメリカ化は否応なしに進行し、英語は重視され、ラジオはカムカムエブリボデイを流していました。
街角でスクエアダンスが流行し、わたしたちは見物して、
「よく恥ずかしくなくあんな真似ができるもんだな」
と口々に批判したものです。
町の公民館でダンスパーテイがあるというので見物にいきました。薄暗い講堂で兵隊帰りの若者と動員帰りの娘たちが抱き合ってのろのろと踊っていました。なんだかとても淫らな光景でした。音楽よりも若者たちの軍隊用の長靴の音がジャーッ、ジャーッと聞こえて興を削いだものです。
昭和21年の4月、戦後初の衆院議員選挙が実施されました。女性の参政権が初めて認められた総選挙です。女性の候補者も大勢いて、いかにも新時代の到来を思わせました。結果は自由党141 進歩党94 社会党93でしたが、女性議員が39名も生まれたのにはみんなびっくりでした。

あの選挙の日、わたしたちは中学のグラウンドで野球をやりました。試合開始早々にわたしは打席に立ち、相手ピッチャーの投球を思い切りバットで叩きました。ポカンと音がして会心の打球が右中間に飛んでゆき、背景の空が目に沁みるように真っ青でした。
わたしは走りだしながら、胸のすくような開放感にかられていました。戦争が終わった。もう戦場で死ななくても済むのだ。そんな考えが浮かんだのです。戦争がどれだけ重くわたしたちの肩にのしかかっていたか、そのとき実感したのです。あの空の美しさはいまでもはっきりおぼえています。

打球の飛んだ空は青く広々としていました。曇っていた空がきれいに掃き清められたようにさわやかでした。もう戦争に行かなくても良い。これから自由に生きていける。あの時代を生きた人なら、みんな似たような経験をしたはずです。
現代の日本の空は曇って鉛色をしています。とくに派遣労働などでコキ使われている若者たちは、戦時中のわたしたち同様、希望のない日々を送っているのではないでしょうか。選挙の結果がどう出ても、あの青空のような開放感がもたらされるとはとても思えないのです。どう世の中が変化しても、終戦、民主主義化のような大きな変化などありえない。さらにどん底を経験すれば、日本の国に劇的開放の日はくるのでしょうか。
戦争にゆかずに済んだわたしたちの世代はほんとうに幸運だったのだといまは思います。でも片側には中国の挑発に負けないだけの備えは必要だという現実があります。この選挙でえらばれた議員たちは、そうした外交的責務をまっとうできるのでしょうか。
きっちり中国に対抗できる体制を整えてから、初めて若い層は開放感を味わえるのかもしれないですね。