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2013年6月11日 2:57 PM

わが人生、万馬券には無縁なり

ここ数か月円安、株高がつづいて世間は好況ムードでした。内閣支持率も高水準を保っていました。ところが先週は反動がきて円相場と 株価がともに乱高下し、なけなしの貯金を投資にまわした小金持を慄然とさせました。
10日はダウ平均が600円ほど回復して、個人投資家たちも一安心したようです。でも、相場の動きに一喜一憂する生活に生甲斐 なんてあるのだろうか。
わたしは株をやる金もないし、興味もありません。でも、アベノミクスが喧伝され、株価18000円だの、株も土地もまだまだ上がるだのとメディアに煽られたころは、バスに乗り遅れた甲斐性なしの気分でした。気勢があがらなかったのです。
個人投資家だけが損したとメディアはいいます。事前にそれを予告しなかった責任については知らん顔。損した奴はオレオレ詐欺に引っか かった年寄り同様のアホだという本音がうかがわれます。ザマ見ろといいたいのでしょう。
正直いってわたしにもそんな思いはありました。貧乏人の僻みです。小金持は損をし、貧乏人は僻み、大金持だけが儲かるという世の中の 図式に変りはないようです。わたしのように銭勘定にうとい人間は、自己防衛として株や為替や国債の知識ぐらいはもたねばならない時代 なのでしょうか。
ほんとにわたしは金儲けがへたです。サラリーマン時代は競馬をやっていました。サラリーマンの悲しさは懸命に仕事にはげんだところで なかなか給料があがらないことです。ボーナスで多少差が出るくらいで、少々成果があったところで他人の2倍3倍の稼ぎになるわけでは ありません。安月給でわたしは困り果てていたので競馬に入門しました。ほかに収入を増す手段がなかったのです。
レースの本命狙いは株の取引きに似ています。オッズが3倍以内の馬券を狙うなんて1レースに何十万、何百万の馬券を買う大金持ちでな いと、妙味がありません。かといって大穴狙いも、全レースが外れのまま競馬場を去る羽目になりがちです。

わたしはオッズが30倍か ら50倍程度の中穴狙いでした。3日に2日は負けたけれど、狙った中穴の馬が1,2位を保ってゴールへ殺到する瞬間のスリル、昂奮は すごいものです。日常生活では絶対に得られない充実の瞬間がそこにはありました。

かくてわたしは競馬にハマりました。土曜日の勤務(当時は半ドン)が終わるのをを待ちかねて淀や宝塚へ出かけました。スタンドで広大な 馬場と走る馬群を眺めた瞬間、世の中を支配する1か月働いて3万円ナニガシという経済秩序から解放され、自由の身になった気分でした 。
運さえ向けば1日で10万円、いや1000万円稼ぐのも夢ではない身になったのです。トータルすればマイナスだったのだろうけど、 たまに狙った馬が1,2位のままゴールインするときの昂奮がわすれられなくなったのです。金銭では損していても、精神的には間違いな く必要経費でした。競馬なしではサラリーマン生活はやっていけなかったと思います。
おかげで会社でボーナスをもらったとき、同僚たちのように、
「ちえッ、雀の涙やで」
と不平をいわずに済むようになりました。

競馬場へいって2倍3倍に増やせばいいや、と思えたからです。わたしは組合運動に 興味がなかったけれど、いま思えばあれは間違いなく競馬のおかげでした。
そのころ、女子大生だった妻と知り合いになりました。初デートに競馬場へつれてゆきました。わたしは前夜睡眠時間を削ってレース 検討をやったのですが、当日は丸はずれ。ところが初心者である妻はパドックで気合の良い穴馬をえらんで2レースを的中させました。一つは5000円代の中穴だったのです。女は直観力がすごい。対して自分は理屈で結論を出すからダメなのだと思い知りました。
以後、妻も競馬にハマりました。病いが重くなって淀競馬場近い橋本で同棲しました。
いつも勝つとはがぎりません。すってんてんになった帰り淀駅の近くのうどん屋で空腹を満たしました。スーパーでいわしの天ぷらを20 円ばかり買ってすうどんを注文し、天ぷらを乗せて食べるのです。すうどんは一杯20円、天ぷらうどんは40円でした。天ぷらうどん2杯
で80円かかるところを、天ぷらの持ち込みをやると二人で60円ですむわけです。1日100万円稼ぐつもりが20円の節約を余儀なくされる。現 実はきびしいなあと嘆いて帰宅したものです。
そのうちわたしは物書きで食えるようになり、競馬に興味がなくなりました。いくら働いてもすぐに給料のあがらぬサラリーマン時代と違 って、物書きは働けば働くほど稼ぎが増えます。当時は注文をさばくのが精一杯で、競馬場へゆくヒマがなくなりました。
考えてみると、貧乏の克服よりも生甲斐の不足を克服するために、わたしは競馬狂いをしていたようです。7~8年におよぶ競馬歴のなかで 一度も万馬券をとったことがなかったのです。金儲けが最大の目的でなかったから当然でしょう。
株やITで巨万の富を築く人がたまにいます。とくに羨ましいとは思いません。1日中相場と睨めっこする生活がそんなに充実しているとは 思えないし、勝ったり負けたりのストレスも想像するだに大きそうだからです。
以前、かのホリエモンが自家用飛行機を得意げに乗り回しているのを雑誌で見て、数億の資産をもっても楽しみはこの程度かとむしろ哀れ に思いました。自家用機に乗って彼は生甲斐をさがしていたのでしょう。金の力を彼は熟知しているが、生甲斐の面では金など無力でしかないことも最近はわかってきたはずです。
わたしは公私ともに万馬券を手にしたことはありません。歳からいって、もうその希望はないでしょう。負け惜しみかもしれないけど、さ ほど空しくもありません。書くことで人並み以上の生甲斐を得てきたからです。万馬券や一等賞金には縁がなくても、人生レースへの真剣参加賞はもらえるだろうと思っています。