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2014年5月13日 2:40 PM

オン年90歳 上には上があるもんだ

NHKのクラシック音楽館でネビル.マリナー指揮のドボールザーク7番と
8番の交響曲を聴きました。マリナーはオン年90歳。名指揮者というより
やたら数多くの作曲家の作品を演奏していることで著名な人です。マリナー
指揮のCDの多いことでは世界一でしょう。
1972年に手勢のオケをつれて来日したそうですが、わたしは覚えていま
せん。しかし90歳で現役というのだから、期待しました。そんな老齢で指
指揮ができるのか。もしちゃんとした演奏なら、80老であるわたしにも刺
激になる。大いに期待してテレビをつけました。
結論から言うと大変刺戟になりました。寛容に優しくオケをまとめる指揮ぶ
りで、ときおり強烈なフォルテッシモでおどろかせたけど、心地よい時間を
すごさせてもらいました。
90歳といえば足腰不自由で、指揮台の上り下りも危うかろうと思ったので
すが、まことに軽快な足取りでカクシャク、いや颯爽としていました。N響
の人たちも楽器を叩いて賞賛していましたが、必ずしも老人へのいたわりで
はなかったようです。90老が見事にステージをこなすのを見て、力づけら
れるのはみんな同様なのです。
でも、わたしはなんだか物足りない思いにかられました。マリナーの指揮や
ドボルザークの曲が、物足りなかったわけではありません。最近はモーツア
ルトやベートーベンを聴いて同じようにも物足りないのです。バッハもハイ
ドンもシューマン、ブラームス、マーラーも聴いてるうちは楽しいのですが、
終るとどこか不足を感じます。ドボルザークも同じです。昔は聴き終えて充
分満足したのに、なにかが変化したようです。
最近ハマっているのがヒンデミットです。ガチャガチャした現代音楽で昔は
受け付けられなかったけど、今は違います。例えば彼のヴァイオリン協奏曲。
さまざまな楽器がめいめい勝手に好きなほうを向いて音を出すような喧噪の
なか、ヴァイオリンが一筋の黄金の糸のよう流れてゆく曲想に「現代」を感
じるのです。
わたしも80老です。様々な知識や情報で頭の中は一杯です。ろくでもない
ものが多いけど。ともかくさまざまな情報が否応なしに頭へ入ってくる時代
に生きていることをいつも意識します。
これがヒンデミット管弦楽にぴったりなのです。昔は喧噪としかきこえなか
った彼の管弦楽が、いまは私の頭の状態をそっくりに描き出していると感じる
のです。
ドボルザークの音楽は魅力的ないくつかの主題とその変奏で成り立っています。
彼の曲には19世紀半ば以後のボヘミヤの大自然の風景が捕らえられています。
モーツアルトもベートーヴェンも作品の中に、彼ら自身とともに彼らの生きた
時代が描かれています。
私たちは彼らの主題と展開、変奏を聴いて、頭の中で彼らの時代を再現し、彼
らとともに生き、喜怒哀楽を共有します。いまある人生とは別の人生を体験す
るのです。
彼らの創り出す「永遠に変わらぬ美」にふれてわたしたちは感動します。でも
、それは現代ではありません。時の流れを超越した「美」なのです。
わたしはヒンデミットを聴いてまさしく「現代」の中にいる自分を意識しました。
そこには「永遠の美」はなく、心が溶けるような美しい主題もありません。
でも、私たちの生きている現代があります。わたしは年老いて頭のなかが多少の
知識、情報で一杯になってからヒンデミットの描く「現代」に共感できるように
なったようです。
モーツアルトにわたしは彼の生きた時代と彼の感性の創り出した「永遠の美」を
享受します。でもそれは現代ではありません。聴き終えてからわれに返り、「あ
あ昔はよかったなあ」と慨嘆したくなります。意識からの現代の追放。わたしの
感じる物足りなさはそこにあるようです。
「最近モーツアルトが物足りなくなったよ」
妻にそう話したところ、
「年をとって、耳が聞こえなくなったんと違うの」
といわれました。なるほどそれも一つの解釈だけど、あまりにわびしい。わたしと
してはヒンデミットによって現代を実感したと思いたいわけです。
ヒンデミットは1963年に亡くなりました。享年68。いま生きていれば119歳です。
90歳マリナーはヒンデミットよりかなり長生きなわけです。指揮者は毎日何時間も
体操をするようなものだから、長生きしても当然かもしれません。
むかし百万遍の音楽喫茶で名曲に陶然とした学生が目を閉じ、指揮者のように 両腕を振り回していたのを思い出します。あの学生が今もあれを続けていたら、間違いなく長生きしているはず。
高齢者社会では腰痛体操だのひざ痛体操だのいろんな体操が発表されます。指揮体操が普及したら90老が増えるのではないだろうか。伴奏曲はベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。

デデデデーン。デデデデーンで90歳。80老なんてまだハナタレ小僧なのです。