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2012年2月24日 3:01 PM

ショパンの無責任「仔犬ノワルツ」

ショパンに「仔犬のワルツ」という愛らしい小曲があります。仔犬が庭でくるくる回っているさまを見て描いたとたといわれている曲です。だが、仔犬は愛らしいだけの生き物でではありません。うるさいし、わがまま勝手だし、世話をやかせるし、一面では扱いにくい動物なのです。
ショパンがほんとうに庭で遊ぶ子犬を見て作曲したとすれば、彼は仔犬を飼ったことがなく、だだ生き物の外見だけとらえて無責任に賛美したにすぎないのです。
  最近わたしは胸痛に悩まされています。左胸からわき腹にかけて重苦しい痛みがつづきます。病院で診てもらったところ、筋肉痛だといわれました。体をねじっ たり無理な労働をしたのだろうというわけです。だが、心当たりがない。原因は仔犬の散歩だとしか考えられなくなりました。
 昨年の暮から四代目のビーグル犬が家に来ました。名前はラビ。ラビットの略です。卯年生まれだというので妻が名付けました。
いま生後4ヶ月少々です。きたときは体重2キロ。ネズミのように小さかったのに、いまや体重4キロ。ものすごい勢いで家の中を駆けまわっています。
 歯の生え変わる時期なので、やたらと物を齧ります。家具やら鞄やら書物やら見境なし。衣服やスリッパ、靴などを咥えてほうぼうへ移動させます。おかげで家のなかは乱雑です。
妻の観察では、飼い主が何かに気をとられていると、関心を引くためにわざと散らかして回るらしい。着替えのときなどじゃれついてきてズボンを噛んで引っ張ったり、靴下を咥えて走ったり、なにかと対応に追われます。
 いうことをきかないと、つい怒鳴りたくなる。頭をコツンとやりたくなります。しかし相手はあまりに脆弱です。なるべくじっと我慢して良い人間修行だと思っています。
 食事のときはそばへきて、椅子にかけたわたしたちの脚にじゃれついて催促します。自分のドッグフードほったらかし。人間と同じ物が食べたいのです。
  人の食物の味をおぼえさせてはいけない、と妻は獣医にいわれるようです。しかし、「なんで私にはくれないの」という顔でじっと仔犬にみつめられると、つい 肉の一切れをあたえてしまう。ケチると信頼関係を損なうような気がするのです。べつに向こうは当方を信頼などしていないのだが、つい人間の水準で考えるの が、当方の弱みというものです。
 毎朝妻が車に乗せて近くの万博球技場前の広場につれていきます。犬の散歩に来る常連が10名ほど いて、小さなコミュニテイができているらしい。大型犬から小型犬までいろいろいて犬は犬どうし、飼い主は飼い主どうし仲良くしているようです。ラビはなか でも元気一杯で、広場に出るとよろこんで全力疾走をくり返すらしい。ジョギングする人を見ると一緒にどこまでも走ってゆくので、目がはなせないということ です。
 午後はわたしが散歩につれて出ます。これが一仕事。ラビは嗅覚の働くまま右へ左へ気ままに歩く方角を変えます。車がきても平気なので注意が欠かせません。
正常なルートへもどすためいつも引っ張り合いをします。リードを右手でもったり左にもちかえたりして綱引きです。ラビはけっこう力が強い。わたしは胸の筋肉をこれで傷めたらしいのです。糞便の始末も面倒です。
 ラビはまだ人に邪険にされたことがありません。出会う人が全員「おおヨシヨシ。可愛い可愛い」と相手をしてくれるときめこんでいます。会う人ごとにじゃれつきたがる。いやな顔をする人もいるから一々気を使います。
 小学生、中学生と出会うと一騒動です。「カワイーイ」と黄色い声があがり、ひとしきり撫でたりさすったりに付き合わされます。
 「噛みませんか」と訊かれると、「噛むこともあるぞ」と答えて手を引かせることにしています。
 じっさい、悪意はなくとも、じゃれたはずみにラビは人をを噛むことがあります。だから、強引に手を伸ばす子供には
「噛むかもしれんぞ。覚悟してさわれよ」 といってやるのです。トラブルになってはカナンと思うからです。
 一般に犬をつれた男は他の犬との接触を避けようとし、犬をつれた女性は他の犬と仲良くさせたがります。男はトラブルを回避し、女は愛想良くして友達になります。女性の社交力には敵わないといつも思わされています。
 人間は無責任だとつくずく思わされることもしばしばあります。子供たちは可愛がるだけで、面倒を見る者はだれもいません。じゃれつかれて遊んで飽きるとさっさと行ってしまいます。ウンチでもしようものならワーイと例外なく逃げ出てしまう。
もっとも犬のほうも、じゃれつくのはなにか食べ物をもらえるかと期待してのことで、けっして親愛の情からだけではないようです。その証拠になにももらえないと知ると、すぐに離れてしまう。人間の思うよりも向こうははるかにリアリストです。
 つまり人間と犬はお互い自分に都合良く相手を誤解してつきあっているわけです。 ショパンの「仔犬のワルツ」は仔犬の実相を描いてはいません。彼はおそらく犬を飼ったことはなく、可愛いだけの生き物と誤解して、外見の愛らしさだけを無責任に描いたのです。
うちの近所の平野米酒店に、老いて手のかかるようになった飼い犬を「引きとってくれ」と押しつける家があとを絶たないようです。飼って年数がたつにつれ て愛着が深まるはずなのに、そうならない無責任な家族も多いらしい。得意先だから米酒店は断れずにで引きとっているようです。
 それにしてもわたしは胸痛がおさまりません。ラビとの引っ張り合いのせいか。米酒店の店員がヨボヨボの老犬を散歩させる姿を見たせいなのでしょうか。