mv

2015年2月3日 5:50 PM

ジイサンは新入社員

日曜日、何時間かテレビの前に釘づけされました。後藤健二さんが殺害され
関連ニュースが延々と放映されたからです。
イスラム国が凶暴な集団だとは聞いていました。だが、いろいろ背景がある
とはいえ、あれほど独善的で、偏見に満ち、残虐、無法な連中だとは思いま
せんでした。2001年の9月11日、ニューヨークで同時テロ事件が起こったと
きは、その模様をテレビで見て、
「ふーん、弱小国が超大国と戦争になると、こんなやり方しかないのやろな」
とわたしは思いました。弱小国に多少の同情さえ寄せていたのです。
しかし、イスラム国が日本を敵国と断じ、日本人をテロの標的にすると宣言
するにおよんで、その滅茶苦茶な言いがかりに唖然としました。わたしたち
はイスラム国を、理解不能の相手と見ていましたが、敵視などしていません
でした。だが、彼らは後藤さんを人質にし、ついには殺してしまいました。
こちらに敵意がなくとも敵国と見なされる場合があるのは、国際情勢ではよく
あることのようです。わたしたちはそんな苛烈な現実を初めて経験させられた
のです。
後藤さん関連のニュースの間、何度もCMが流れました。深刻な国際関係の報
道とは乖離したジャカジャカと浮ついたCMばかりです。保険、金融、自動車
、引越し、旅館、薬品、食物から番組予告まで。みんな売り込みに必死です。
ああ平和の世の中は売り込み合戦の世の中なのだな、とわたしは思いました。
そして、自分の新入社員時代を思い出しました。
大学を出てわたしは外資系の事務機器商社に入りました。一台350万円の会計機
の担当となり、いきなりセールスに出されました。大卒の初任給が12000
円~15000円の時代です。350万円の機械なんてどこへいっても相手にされ
ません。玄関払いの連続です。「役立たずの御用聞き」そのもので野良犬よりも
惨めに追い返される日々でした。
わたしは途方にくれました。一流大学の出身だから、それなりのプライドはあり
ます。同期入社の者も全員東大や京大の出身なので、卒業までは順風満帆の人生
でした。世の中に出ても大事にされると思っていました。ところが実状はまるで
反対。ヘミングウエイもサルトルも知らなくても良い。注文を取って来さえすれ
ば勝ちの世界へ放り出されたのです。大学と社会は異次元の世界でした。
わたしたちはそれぞれ逃げ支度を始めました。もっと自分に向いた職場がどこか
にあるはずだと決めて、脱出の支度にかかったのです。あのころわたしたちにと
って、日本は受け入れ先のない社会でした。なんとか潜りこむさきを見つけねば
ならないと必死だったのです。
いま日本は冷酷な国際情勢の中に初めて投げ込まれて戸惑っています。「英才」
だった学生時代から「役立たずのご用きき」に変身させられた新入社員のわたし
たちに似ています。わたしたちはなんとか潜りこむさきを見つけたけど、国家に
そんな逃げ場はあるのでしょうか。日本人は逃げ場ではなく、苛酷な外交戦に勝
ち抜くだけの逞しさを身につけねばならないようです。
日本はガチャガチャするCMのあふれた商売戦の世界です。でも、後藤健二さ
んの訴えたかったシリアやイラクよりもはるかにマシな国であるのはたしかです。
てなことを考えていたら、イスラム国は人質の遺体を引き取り先に売るという話
が耳に入りました。日本人が商売で鍛えられているといっても、国際的にはまだ
「役立たずのご用きき」なのかも知れませんな。

  • 丹呉泰子

    こんにちは。丹呉です。20代を過ごした北米は、湾岸戦争のさ中でした。街中の人々は黄色いリボンを着けて歩いていましたが、戦争の恐さまでは感じませんでした。南米やイランから来ていた大学の同級生や職場での同僚たちは、有事のために頻繁に帰国していましたが、私自身は肌で”戦争”を感じたことはありませんでした。
    当時はインターネットが今ほど普及していなかったので、限られた知り合いとの対話や情報交換だけでした。今はライブ情報が自然に入ってきます。

    ジャーナリストの後藤さんは今回、友人の救出を目的に覚悟を持って現地入りされました。後藤さんも渡航阻止をする人もそれぞれやらなければならないの仕事をしたということなのだと思います。今この瞬間、流れている銃弾のことも報道されることがなければ、紛争の存在さえ知ることがないのですから。日本はこれからISILや米国とどうつきあっていくのでしょう。

    • abemaki0894

      丹呉㤗子さま
      小生の世代には留学経験者がめったにいなかったので、泰子さんのキャリアを知って なにやら緊張します。禁酒中でなければお会いしに飛んでゆくのですが。 80代になってもまだ悩は元気です。今年は一仕事しますから見ていてください。
      ご健勝をお祈りします。  阿部牧郎