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2012年6月20日 12:17 AM

何を思って殺すのか

なにを思って殺すのか
心斎橋の繁華街で、なんの罪もない通行人を2人殺した奴がいました。犯人は5月に刑務所を出所したばかりの36歳の男です。
「住む家も仕事も金もない。自殺をはかったが、できなかった。人を殺して死刑になろうと思った」と犯人は当初述懐していたようです。
「死にたかったら一人で死ね」
松井大阪府知事はごく陳腐な感想をのべました。
「満期出所者はあまりに見捨てられている。再犯防止のため社会全体でケアしなければ」
と識者は口をそろえます。
わたしはこの種の事件の防止対策について建設的な提言のできるガラではありません。だが、犯人の内面については察しがつきます。こんな男を主人公にして小説を書いてみたいと思うのです。
今度の事件でわたしはまっさきに児童8人が殺された池田小学校事件と、数十人の通行人をトラックで跳ねた上、7人をナイフで刺殺した秋葉原事件を思い出しました。双方とも犯人は今度の事件と同様二十代、三十代の独身男です。
池田小学校事件の犯人は多分に精神障害の兆しがあり、これまでにも暴力沙汰で何度か刑務所へ入ったツワモノでした。だが、秋葉原事件の犯人はふつうの派遣労働者だったし、今度の事件の犯人も覚醒剤がモトで刑務所入したけど、普段はさほど凶暴でもなかったようです。
だが、三人とも孤独でした。安定した職もなく、希望もなく、世間から疎外され見すてられた心境だったようです。
わたしたちの若いころ、昭和30年~40年頃はまだ活字の時代でした。昭和39年の東京オリンピック以来カラーテレビが普及し、映像の時代が始まりました。かつては情報伝達の主役は活字でしたが、しだいに映像が進出し、現代は過剰なほどの映像文化の時代になっています。
テレビには、とくにCMには入れ替わり立ち替わり美男美女があらわれて、この人生を謳歌します。みんな幸せそうで、溌剌として、生活の苦労なんかなさそうな男女ばかりです。
「ボクたちはこのとおり幸せです。この商品をお使いなさい。キミも間違いなく幸せなれるよ」
とかれらは訴えます。
売らんがためにかれらは現実とは別の架空の人生を演じるのです。そんな幸せ一杯の人生が存在するわけがないのに、かれらはいろんなシチュエーションで幸せを演じます。朝から晩まで休むこともありません。おかげで人生にたいして期待過剰な人間が増えているのです。
わたしたち人生の途中からテレビに触れてきた世代には、多少の余裕があります。たまには美男美女のすすめを容れて当該商品を買うこともありますが、意識の底は覚めています。テレビCMで描かれる人生は架空の人生。現実にはもっときびしく辛い人生がある。美男美女は商売で幸せを演じているだけだとわきまえているのです。
ところが生まれた時から家にテレビのあった世代は、そうではないのです。家のテレビではでつねに架空の人生がつづいています。風邪をひいて一日ベッドでテレビを見ているとわかることですが、連続して放映されるCMはどれもこれも「幸せの歌」ばかり。美男美女が笑ったり歌ったり踊ったりさけんだりして幸福と充実をアピールします。あまりに執拗なので、ぼんやり見ているとやがて現実と架空の場面の区別がつかなくなります。なにが現実でなにがお話なのか、区別するのも面倒になります。
生まれてから家にテレビのあった世代はどうやらそんな傾向にあります。もちろん若い世代も現実と架空の違いは心得ています。だが、頭で理解しているだけで、意識の底では両者の境界は曖昧になっています。ちょっと混乱すると現実と架空は混じり合う。
まして社会から見捨てられたと感じている青年たちが、CMの幸せそうな男女を見て、あれは嘘だとは思うわけがありません。
「あいつらはあんなに幸福そうなのに、おれはなんでこんなに不遇なんや」
と彼らは思います。
彼我の「幸せ度」に格差を痛感します。やがてその感情は怨念に成長するのです。
「畜生。いまに見とれよ。ごっついことをやらかしてあっといわせてやる」
と腹を決めるに至るのです。
テレビ時代の一つの大きな特徴は自己顕示欲の容認の文化です。だれもがテレビに出たがります。天下に自分の存在を認知させたい。その思いが強くなると、善悪は二の次になってきて、なんでも良い、デカいことをやらかして社会に注目されたいと思うようになります
。社会への貢献で目立つのでなくとも、人殺しでもなんでもやって目立ちたいと念願します。。
無差別殺人の犯人たちにわたしはそんな歪んだ自己顕示の欲求を見るのです。映像の時代もここまできました。いつのまにか日本は目立ちたがりの国になりました。人目につかぬ場所でコツコツと汗をかくなんて流行らないのです。
わたしたちが若くて貧しいころ、世の中にはまだテレビがありませんでした。毎日毎日幸せぶりを見せつける男女など存在しなかった。みんな同じように貧しくて苦労しているのだとわたしたちは思っていました。
でも、いまは違います。見せつける奴らが多すぎるのです。じっさいは多くの者が裏ではそれぞれ苦難の道を歩いているのですが、恵まれない若者などに、なんでおれだけがこんなに不遇なんや、と思わせる構造に世の中はなっています。
人を殺してまで目立ちたい人間は今後も輩出するでしょう。宝くじの一等当選の確率は1000万分の1だといいますが、ゆきずりの通り魔に襲われて死ぬ人はそれよりも多くなるかもしれません。
でも通り魔は幸せそうな人物、いまが人生の盛りである層を狙うはずです。老人はめったに標的にはなりません。お年寄りのみなさん、せいぜいジジむさい格好で出かけることにしませんか。ジジむさルックが流行するかもしれません。それがいまや長生きのコツです。

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