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2011年10月20日 2:46 PM

十和田湖の響き

『十和田湖』
111018_1502491 10月17日(月曜)より20日まで亡母の七回忌で秋田へ旅行しました。 今年は東北地方に縁が深く、友人の葬儀、被災地見学、花輪高同期会とあわせて4 回目の東北行きです。妻と二人で航空運賃だけで13万2千円ナリ。出稼ぎ老人には痛い出費です。実家が遠方にある不利を再認識させられました。おまけにい まは東北への団体旅行で飛行機 が満席です。帰りの便はキャンセル待ちでかろうじて滑り込み。余計な苦労をさせられました。
日程に間違いがあって18日は一日空いたので三弟の運転で十和田湖を一周しました。これまで何度か訪ねたことがあるのですが、今回 は格別な感慨をおぼえました。
例年よりも紅葉は薄いとのことでした。天候不順と強風のせいで樹葉が色づかないうちに落ちてしまうようです。当日も風が強く、道路 には無数の落葉が舞い踊っていました。それでも観光施設の少ない西側の湖岸道路は両側に高い樹木が茂り、切れ目切れ目から見える湖面 は異様なほど美しいコバルトブルーに広がっています。おまけに湖面は荒海のように白く波立ち、なにかを訴えるようにざわついていまし た。のどかな観光気分よりも、大自然が語る意味不明の言葉に気圧される風景がつづきます。
学生時代、仲間と数人で湖岸のキャンプ場に滞在したこ とがあります。20戸ばかりの丸木小屋の一つを借りて4~5日過ごしました。 泳いだりボート漕いだり釣りをしたり、夜は麻雀ですごしたりしたのですが、となりの小屋にいる女子学生のグループに声をかける度胸も なく、信じられないほど紳士的なキャンプ生活でした。当時は十和田湖はひたすら平穏で、なにかを語りかけてくる気配などなかった。以 後何度か訪れた際も、晴れやかな観光気分をもたらしただけでした。

111018_1227251←『奥入瀬』

今回は印象が別でした。十和田湖は遊びに来た人間になにか基本的な問いかけをしてくるのです。強風と寒さのせいか、これまで行ったこ とのない西側から湖を眺めたせいか、それともやはりトシのせいか 考えてみてわたしは石巻、女川、気仙沼など被災地を見学した名残だ と気づきました。
震災と原発事故でわたしたちは、人間が最先端の科学技術を駆使しても自然の力を完全には制御できないことを学びまし た。今回見た十和田湖は、学んだことをわすれるなと不気味に念を押していたようです。
その晩実家で暮らす末弟から愉快な話をききました。今年は天候不順のせいで餌のどんぐりなどが不足し、村の近辺にしばしば熊が出没 する。、先日はついにわが家の庭にもあらわれたということです。
早朝、末弟が縁側でタバコを吸っていると、大きな熊がのっそりと庭 に入ってきた。末弟は仰天し、熊を刺激しないようそろそろと硝子戸を閉めて見守ったそうです。しばらく付近をうろついたあと熊は無事 に庭を出ていった。 村では何人かが同じ熊を目撃していて、さっそく猟友会が動き出しました。そして首尾よく熊を見つけ出して射殺し、熊の胆などオイシ イ部分は自分たちが独占し、あとは一般の人たちに販売したそうです。
「うちの庭に入ってきた熊は年寄りで肉は固くてまずかったそうです。先月獲れた熊は若くて美味かった」
末弟は年寄りのわたしがいやな顔をするようなことをいって笑いました。
彼の話によると村に出没する熊は圧倒的に若い熊が多いそうです。最近は親熊に指導力がないのか、仔熊に学習能力がないのか、若い熊は人間の恐ろしさを知ら ないまま人里へ出 てくるのです。高齢の熊は人を見ると逃げるが、若い熊は襲いかかってくる。各地で事故の多いのはそのせいだということです。
「そうか。熊の社会もゆとり教育なのだな」
わたしは笑ったが、笑いきれませんでした。十和田湖の波の音がきこえたような気がしたのです。災害からちゃんと学んだのかおまえら は。湖にそういわれたような気がしました。原発再稼動や輸出を政府首脳ががきめたというニュースが頭に残っていたのです。
世はIT時代です。IT技術の進歩により世界はおそろしく便利になったが、原発と同様どんな想定外の被害を社会にもたらすか見当も つきません。事実、若い層の人格形成にかなりの影響が出ていることが一部の学者に指摘されています。原発はまだしも放射能の危険が周知の事実だったが、 ITには人間には想像もつかない新種の危険がひそんでいるかもしれな いのです。と思ったところでどうしようもないのだけれど、今年の十和田湖は風景の底にわたしのような科学音痴の人間でさえ不安にさせ る威嚇の響きを立てています。無邪気な仔熊とちがって学習能力がわれわれにはそなわっていると思うのだけど。