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2012年7月24日

寝言(7)

竜右衛門は柔和な顔つきですが、細い目に油断ならぬ光があります。顔はいかにも精力家らしく、艶やかに脂光りしています。くみが気味悪がるのも無理はないようです。

くみが話したとおり竜右衛門は月に四、五回、妾宅をたずねたということです。たまに泊まることもあるが、たいていは日帰りでした。朝はやくから稼業に精を出すので、自宅でゆっくり眠らねばならないということです。

「お静はときどき圭之介という若い男を家に引っぱり込んでいたらしいな。おまえ、それを知っていたのか」

きいて竜右衛門は息を呑み、顔をひきつらせてふるえ声で答えました。

「お静が若い男を-―。そ、そんなバカな。お静はそんな女じゃございません」

「しかし、女中のくみがそう申しておるぞ。きょうも圭之介がくるはずだったらしい。くみは小遣をもらってあそびに出された」

圭之介が人形職人であること、独り身であることを大二郎は教えてやりました。

「ま、まさか。お静は気位の高い女でございます。職人風情に身をまかすなどありえませぬ。くみはなにか思いすごしをー―」

「しかし、圭之介を見かけた者が近所には何人かいるのだぞ。その者たちが嘘つきだというのか」

いわれて竜右衛門は顔を伏せてだまりこみました。

遺体から流れ出た血がまだ生乾きなのから見て、お静の殺されたのは八ツ半(午後三時)から七ツ(午後四時)にかけてだったようです。

手文庫に金は入っていませんでした。賊は殺してさらに金も奪ったもののようです。

お静は二十六歳。竜右衛門の話では、吉原からの身受金は二百両だったということです。花魁あがりらしく気位の高い女でした。和歌朗詠、三味線、茶道、囲碁のたしなみがありました。

竜右衛門も囲碁が好きで、二人はしばしば碁盤をかこみました。昨年、赤ん坊が生まれてからは、二人はくみに子守をさせて対局に夢中だったということです。勝ったり負けたりだったが、お静のほうが手は上だったようです。

青島屋竜右衛門は両替商のほか質屋も営み、持金七、八千両といわれる分限者です。一代で財をなしたにしては若く、まだ四十三歳だということです。

分限者にしては頭が低く、人をそらさない男のようです。だが、どことなく冷たい感じがしたようです。くみに向かってもよくお世辞をいうが、くみは龍右衛門を好きになれなかったという話でした。

お静とのいきさつはほぼ女中のくみからきいたとおりです。最近妾宅から足が遠のいたのは、不景気で質物のなかに盗品のまぎれこんでいることが多くなり、その筋の調べにつきあわされるからだそうです。

お静、まさかおまえ、若い男と――。しばらくして竜右衛門はつぶやきました。よほどの衝撃だったようです。

大二郎は、竜右衛門の話しことばにきき馴れない訛のあるのが気になっていました。江戸勤番の田舎侍ならともかく、産をなした商人(あきんど)にはめずらしいことです。

「竜右衛門、おまえさん生れはどこなのかい。江戸へ出てきて何年になる」

訊かれて竜右衛門はすこしあわてました。

急に話が切り変ったせいなのでしょう。

「は、はい。西国の肥後の生れでございます。三十一のときに江戸へ出て、浅草で小さな質屋をはじめました」

「ことばに訛があるな。十年以上も江戸で暮らしてなお訛りが残るとは妙な話だ」

「お恥ずかしうございます。肥後弁は生れつきのもので、何年たっても訛が消えませぬ。歌がへたなのと係わりがあるのでしょうか」

答える竜右衛門のひたいにあぶら汗がにじんでいます。

けげんに思ったが、あやしむほどのことでもありません。大二郎はほかの事柄に話題を移そうとしました。が、急