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2011年7月8日 2:28 PM

自己顕示の時代

先日ひどい二日酔いで半日、部屋のテレビをつけっぱなしで寝ていました。うとうとしたり醒めたりする 間、番組とCMがつぎつぎに流れてゆきました。CMのうるさいのにはうんざりでした。CMのときテレビの出力は明らかに大きくなる。番組の音量を調整して おいても、CMになったとたんやかましくなってアタマへくる。タレントや俳優や歌手が入れ代わり立ち代り画面に出てきて、「これを買えばあなたは幸せにな りますよ」だの「これを買わないとエライ目に会うよ」だのと言い立てる。
 若者や子供が声を張り上げて歌ったり、お姉ちゃんたちが 踊ったりなんともうるさくて寝付けません。テレビを消すとさまざまな思念に邪魔されて目がさめてしまう。何十人ものセールスマンに責め立てられる思いで半 日をすごしました。日本は押し売りの天国になったというのが腹立ちまぎれの実感です。
 なかでもアホらしいのは育毛会社の社長や美 容整形の院長の出てくるCMでした。社長も院長もみずから売り込みの弁を口にする。タレントや俳優の代わりをするわけです。だが、プロと違ってイケメンで もないし、台詞もぎごちない。見ているほうはシラけます。社長も院長も尊敬はされない。出たがり屋、目立ちたがり屋と思われるだけです。
  むかしからこの種のCMはたまにありました。化学会社、不動産会社などの社長が出てきて宣伝用の御託をのべる。本人はCMに出ることで顔が売れ、街で 「あ、××会社の社長の××さんよ」と騒がれるようになりたいのだろうが、タレントでも俳優でもないのだから、一年中出ずっぱりでも顔をおぼえてもらえな い。どころか「あのおっさん、いい加減に引っ込まんかい」と嫌われる羽目になります。。大震災の自粛中のAUのCMに出ずっぱりの元阪神の赤星選手など、 出演の動機は純粋だったのに、その意味でのギセイ者でした。
 自己顕示欲はだれにもありす。まして現代は甘やかされて自己肥大した 人物が増え、なにかというと目立ちたがり、有名になりたがります。手っ取り早くその欲望を満たすにはテレビに出るのが一番です。まして事業に成功し金持ち になったからには、世間に名と顔を知られたくてたまらなくなるわけせです。
 だが、テレビに顔をさらして視聴者に好かれるのはよほ どの美男美女か芸達者な人材くらいのもの。まして社長や院長は明らかに出番を金で買ったのだから、嫌われて当然です。一般人は自分の外見ではなくその仕事 の成果で自己顕示するしかありません。それが一般人たるゆえんであり、人に顔や名前を知られたい他愛のない欲求に踊らずにすむ道でもあります。
 最近、わたしは電子書籍というものを勉強する気になりました。あまりに世の中に遅れをとると、現代小説が書けなくなる不安にかられたからです。
 手始めにさまざまなリリースサイトの一つ(客が電子書籍を買いに集まるサイト)に登録し、アクセスしてみました。そのサイトには一万点上の電子書籍が用意されているとのことです。
 トップページに多くの新作書籍、人気書籍が紹介されていました。多くは漫画、写真集ですが、小説もあります。名のあるジャーナリストの著書が一点だけ目に付きました。
  一、二冊買おうと思ったが、知っている作家の名が見当たらない。作家検索を引いてみました。漫画、写真の作家が3分の2を占めていたが「純文学」の作家も 何人か目につきました。全員が40代以下の若さです。なかには顔写真を出している者もいます。100円の本と300円の本を一冊ずつ買って、パソコン画面 で読んでみました。どっちもイヤハヤひどいデキで、とても【純文学】などといえた代物ではい。しかし御両人とも自己紹介は意気軒昂で、すでに一人前気取り です。一人はヒゲ面の顔写真まで披露している。
 なるほどなあ。わたしは感嘆しました。何冊か自前の小説を電子書籍にして、それで 作家気取りでいられる。せまい範囲内だが、自己顕示の快感は保証される世の中なのです。わたしの修行時代は一枚30円の原稿料を払って同人誌に書かせても らったものだが、いまどきの作家は無名でも本を出しで売ることができます。作家ごっこの時代なのです。現実を直視せず、非現実の作家ごっこでとりあえず自 己顕示欲を満たしている。最近若い読者にうけているのがリアリズム無視の時代小説である原因がわかったような気がしました。それら時代小説の主人公は、現 実にはありえない強くてよくモテるキャラが多いのです。
 美男美女でなく、CMの出演権を買う金もない層が、テレビ出演の代わりに小説などを書いて自己証明をはたそうとする。だが、そんなものが文芸の領域で通用するはずがない。電子書籍でちゃんとした小説の出るのはまださきのこととわたしは思うのです。