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2014年12月16日 4:58 AM

自由をとるか安定をとるか

平成不況の始まりとして山一証券の倒産が頭にうかびます。同証券は4大証
券の1つにあげられた大企業で、倒産など考えられませんでした。バブル経
済で浮かれていた当時の日本の大ニュースとなったものです。
最後の同証券社長がテレビに出て
「社員は悪くありません。われわれ経営者の責任です」
と泣きながら話したのが印象的でした。
莫大な簿外債務のことなどが言葉の裏にあったのですが、私はそれと知らず
社員の再就職を心配した言葉だとばかり思っていました。たしか1990年
代初頭のことだったと思います。
こんなことを思い出したのも、今度の選挙で野党が「非正規雇用の増加はア
ベノミクスの失敗」といい張り、結局大敗したせいです。
非正規雇用はそんなに悪だったのですかね。企業の最大の負担が人件費であ
る以上、なんとか削ろうとするのは当然です。財界はそのへんに抜け目があ
りません。バブル崩壊の直前、1986年に「労働者派遣法」を制定させて人件費
の削減が合法的にできるよう手を打っています。
おかげで非正規雇用の社員を増やして、山一證券のような危機に陥らずに済
んだ企業も多かったはず。正社員と派遣社員(契約社員)の待遇に格差が生
じる点はともかく、多くの経営者にとってありがたい法律だったのです。
ここで前週につづき長谷川幸洋氏の文章で知ったことですが、非正規雇用者
にたいする厚生省の調査によると、なぜ非正規を選んだかだかと云う質問に
25,4%の人が、
「自分に都合の良い時間に働きたいから」
と答えたそうです。
ついで多かった答えが「家計の補助」「家事、育児、介護などと両立できる」
「専門の技能を生かせる」{通勤時間が短い」などで全体の7割がすすんで
非正規雇用をえらび、本当は正規採用されたいが、機会がないからしぶしぶ
非正規に甘んじている、という人は全体の7,6%にすぎないそうです。
もっとも調査対象はほぼ女性のようです。(男女数は記載されていません)
男が入ればやや事情は変わると思うけど、それにしても正社員が万人の希望
だという常識はいまや通じなくなりました。えらんで非正規社員になる人の
方が多くなったのです。
正社員のメリットは「終身雇用」「ボーナス」「退職金」の3点にあります。
しかし自由はありません。毎朝9時に出勤し、午後5時までは退社できず拘
束されます。上司には絶対服従。転勤もいやなら会社を辞めなくてはならな
いのが通例です。
月々給料はもらえるが、代りに奪われる自由があまりに大きい。安定をとる
か自由をとるか。近ごろは給料や生活の安定を多少犠牲にしても、自由を取
る人の方が増えたのです。
考えてみるとわたしも正社員生活の窮屈さ、不自由さにとても耐えられませ
んでした。毎日がつらかったのは、別段イヤな上役の下にいたわけでも、仕
事が辛かったわけでもありません。もし給料が格安でも、出世の見込みがな
くても一日5時間勤務で良いのなら、非正規社員をえらんだはずです。そう
やって物書き修行がしたくてたまりませんでした。
当時はポケベルも携帯もありません。セールスのため会社を出ればこっちの
もの。映画を見たり麻雀をやったり、ときには喫茶店で物書き修行をしたし
ていました。そして2年半でクビになりました。呑気だけど、給料泥棒の罪
悪感にまみれた2年半でした。あと7年はふつうのサラリーマン生活をしま
したが、あまりの窮屈さに身悶えて暮らしました。いまならすすんで非正規
の道に入り、貧乏に耐えて売れない小説を書いたでしょう。
むかし、ひょんなことから知り合った男が女房をトルコ風呂に働かせ、自分
は職につかず小説修行をしていました。あの男が芽を出したかというと、そ
の後さっぱり消息をききません。
人生、リスクをえらんでうまく行くかというと、そうでもないようです。でも世の
中が変りました。これから小説修行する人は非正規社員になってやれば良
いのです。歯を食いしばって労苦に耐えて、秀作を書いて世に出る機会が

あるやもしれません。でも、そうやってデビューしても小説を読む人が少な

くなって本が売れなくなったら何のこっちや。

正社員よりも非正規社員の志望者が多くなったように、物書きも発想を変える

必要があります。かの7人の男を殺した(らしい)筧比佐子なる女性。彼女の

書いた私小説なら間違いなくベストセラーになりますぜ。殺してから書け。