mv

2011年9月8日 2:41 PM

誕生日

9月4日はわたしの誕生日でした。、喜寿を無事に超えて78歳になりました。
ああ78歳。若いころの想像では、78の老人なんて白髪に白髯、痩 せこけて頭のみ大きく杖にすがってよろよろと歩くジイサンでした。自分がその年齢になったとはとても信じられない。見たところ頭髪こそ心細くなったが、顔 に老人斑はなく、シワもすくなく、腰も曲がらず、まあ若く見えるほうだと自己弁護しています。それでも、ヒゲ剃りの間、鏡でチェツクすると首にはシワが寄 り、眉にも白毛がまじってまぎれもない老人のご面相。現実のきびしさにショックをうけるのです。
78歳といえば10年前を思い出します。その年わたしは所用で上京し、泊まったホテルの酒場で野坂昭如さんと一杯やりました。
途中、「あなた。いくつになったの」と野坂さんは訊きました。
野坂さんは学生時代からの知り合いです。古馴染みであり年齢も下のわたしを彼はおまえ呼ばわりせず「あなた」と呼びます。わたしに敬意をはらったわけでは なく、誰に対してもそうです。育ちのせいでしょう。彼の父上はかつて軽妙洒脱がウリでラジオに出演していた新潟県副知事でした。蛇足ながら野坂さんは数年 前に脳梗塞で倒れ、目下リハビリ中です。
「68になりました。信じられないスよ」訊かれてわたしは答えました。すると野坂さんは「まったく信じられないねえ。おれ71だもんね」とため息まじりにつぶやきました。二人ともまだ若いと思いながら肉体の老化に直面してガクゼンとする年齢にきていたのです。
まったく自意識と、現実の肉体の老化のあいだには{暗くて深い川がある」です。
たとえばわたしは持病の糖尿病のほか上は入れ歯、視力が落ち、階段登りでひざが痛み、酒が弱くなり、読書中に眠くなるなど「ああ、おれもトシだなあ」と慨 嘆する機会に事欠かないのに、、自意識は10年前とそんなに変わっていません。「今度こそオモロイ小説を書くぞ」という気力はあるし、知識欲も旺盛、シャ ンソンも原語で歌えるし、まだ色気もある、と自分を鼓舞しています。だが。傍目にはかなりヨボヨボしているのでしょう。まだ若いと自分にいいきかせたり、 現実に目が向いて落胆したりの繰り返しが老年というものなのです。
以前、町中をジョギング中に転んだことがありました。走っている間は健康にも 若さにも自信満々でした。どうや、おれはまだこんなに元気やぞ。歩いている人に見せびらかす気で走っていました。かつての宗兄弟や瀬古選手になった気分 だったのです。ところが曲がり角でつまずいて見事に転倒。コンクリートの路面に肘と膝を強打して痛いのなんの。呻いてしばらく動けなかった。
近くのバス停にいた若者たちが集まってきました。
「大丈夫ですか。肩を貸しましょうか」
「さあつかまりなさい。遠慮なくどうぞ」
「お宅はこの近所ですか。送っていきますよ」
口々に声をかけてくれる。わたしの腕をつかんで立たせようとする者がいる。全員の顔や声に老人への気遣いがあふれていました。
わたしはといえば、若者に同情されるのが癪にさわる。自分はまだ若いという思い込みを壊したくない。なんとか起き上がろうするのだが、痛くて起きられな い。おそろしく痛くて骨折が心配なほどです。若者の助けの手を振り払い、しばらく呻くうちにようやく痛みがうすれ、起きることができました。
「ありがとう。もう大丈夫だから」
若者たちに礼をいってよろよろとわたしは歩き出しました。なんという強情なジイさんかと若者たちはあきれて、シラけた顔で見送っていました。オリンピック ランナーからやせ我慢老人へ。急激な転落をへてわたしは「まだまだおれは若い」という自意識が幻想にすぎないのを思い知ったのです。そもそも老化してなけ ればあんな人前で転んだりしなかったはず。わたしの必死のやせ我慢が若者たちにはとても滑稽に映ったことでしょう。すなおに彼らの手を借りて立ち上がれば よかった。
しかし老いの現実ばかり向かい合っていては老人性ウツ病になります。まだまだやれるという思い込みは生き抜くためには必要なのです。だが、あまり過剰になるとドン、キホーテになる。注意する必要があるようです。
つらい老いの現実の一つに加齢臭があります。これが言われだしたのは最近のことで、むかしはこんな語はありませんでした。。漫才のやすし、きよしが「あ、オジンくさい」といっていたときはギャグとしか受け取らず、まさか現実になるとは考えなかった。
先日なじみの酒場で「先日ご一緒やった○○さん、加齢臭がひどうてカナンかったわ」といわれておどろきました。○○氏が悪臭の持ち主だとはまったく気づか なかった。ひょっとしてわたしのことを遠まわしに言ったのかと心配になり、「おれはどうや。匂いがするか」と訊いたところ、アベさんは大丈夫よといわれて 安心しました。でも疑えばキリがないけどね。(先日ご一緒した王寺の西村くん、きみのことではありません。ご心配なく)
家で妻に相談しました。友人として○○氏に加齢臭のことを告げるべきかどうか。友人ならそうするのが友情ではないか。
「いわないほうがいいわ。○○さんを傷つけるだけやと思う」
妻はそう答えました。わたしはそのアドバイスをいれて○○氏になにもいっていません。だが、気になって困っています。どうすれがよいか。どなたか良い智恵を貸してくれませんか。