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2012年7月26日

二、三日して圭之介と青島屋竜右衛門の身辺がしだいに明らかになりました。

圭之介はこの春以来、何度か賭場へ出入りしていたようです。

二月のなかば圭之介は若松人形店から給金十両を前借りしています。博奕の元金にしたらしいが、あえなくスッてしまったらしい。

損をとりもどすため圭之助は賭場へ出入りをくりかえしました。元金はお静が工面したのでしょう。

首尾はさらに良くなかったようです。圭之介は元金をスッたうえに、賭場に三十両からの借金をつくりました。

大二郎はこの件について、あらためて茅場町の大番屋で圭之介を取り調べました。立会いは亀蔵です。

「あ、相済みません。お静が暇をもらったら、二人で店を出す約束でした。その元手をつくろうと助平心をだしたばかりに、逆に借金を」

圭之介は身をちぢめて答えました。

賭場へ出入りしたことが知られれば、お静殺しの疑いが濃くなると思っていたようです。

「店を出す元手だと。お静が暇をもらえば然るべき手切金が出るといったじゃねえか。元手はそれで足りるはずた。てめえ、どこまで与太話を通そうってんだ」

亀蔵はすでに圭之介が犯人だと睨んでいます。

「と、とんでもない。嘘偽りは申しません。青島屋がなぜか急にお静に暇を出さぬといいだしたんでございます。賭場から取り立てがまいりまして、私は進退きわまって」

圭之助は泣かんばかりにお静に金策を依頼しました。

「二、三日お待ちなさいね。かならず青島屋の旦那にまとまったお金を出してもらいますから」

お静はなぜか自信ありげにいって圭之介を引き取らせたということです。

その日もあくる日も賭場の取立ては容赦なくつづきました。たまりかねて圭之介は二日後にお静を訪問し、惨劇に出会ったのだといいます。

「お静に再度の無心を申しいれた。だが、断られておまけに愛想づかしされちまった。カッとなっててめえは出刃包丁をふるったんだろう」

亀蔵は強気にきめつけます。

「ちがいます。ちがいます。たしかに無心しにまいりましたが、お静はすでに」

「おきやがれ。覆面の男に仲間がいたとか、青島屋の気が変ったとか、てめえの話はまるで信用ならねえよ。ねえ旦那、この若僧そろそろ牢屋敷へ送りましょう」

亀蔵にいわれて圭之介は泣きだしました。

まあ待て。亀蔵を制止して、大二郎は問いかけます。

「おまえがどこの賭博へいったのかは訊かぬ。吐けばおまえの生命にかかわるからな。しかし圭之助、去年までは賭場へ足を踏みいれたことはなかったんだろう。だれに案内されたんだ。最初から一人でいけるわけがない」

「名前を知らねえんでございます。嘘じゃございません。浅草寺の境内で声をかけられまして」

一ヶ月ばかりまえ、圭之介は浅草寺へ富くじを買いにいきました。

人混みを縫って売り場へ近づこうとすると、見知らぬ男に小声でさそわれたのです。

「兄さんよ、富くじなんざ何千人に一人しか当りやしねえんだ。それよりずっと割のいい手なぐさみの場所があるぜ。案内しようか。金が欲しいんだろう」

圭之介はさそいに乗りました。

浅草寺の近くで駕籠に乗せられ入谷のあたりで目かくしされました。しばらくして着いたのは、田園のなかの荒れ寺です。

そこには三人の世話人と六、七名の客がいました。客はお店者か職人らしい男ばかりだったのです。

「元手の十両をスッて口惜しくてたまらず、お静に十両工面させてまた富くじの日に浅草寺へいったんです。べつの男に案内されて賭場へ入りました」

賭場に用のある者は、富くじの日、赤い数珠を手に浅草寺へゆくのが合図だと最初の日に教わりました。

すぐに圭之助は常連客の一人になったのです。

圭之介は最初のうち儲けましたが、しだいに負けて熱くなり、元金をつかいはたしました。三十両までなら金を貸すときかされて、証文に拇印を捺し、張りつづけて夕刻にはふたたび無一文になったのです。

返済の期限は十五日。お静が殺された日の前日でした。事件の当日には圭之介は賭場の者に殺されても仕方のない立場になっていたのです。

「その賭博を仕切っていた者たちになにか変った点はなかったか。ことばづかいとか、風体とかに――」

大二郎に訊かれて圭之介は考えこみました。

しばらくしてかぶりをふります。とくに目につく事柄はなかったようです。

「おおよその訳合いはわかった。またなにかあれば話をききにくるぜ」

大二郎は腰をあげました。

圭之介は心細そうに見送ります。

いっ